薬剤
患者のためのがんの薬事典
★★★テモダール(一般名 テモゾロミド)
19年ぶりに登場した悪性脳腫瘍の新規抗がん剤
文:松沢実
(2006年12月号)
テモダール(商品名。一般名はテモゾロミド)はアルキル化剤に分類される抗がん剤で、
(1)脳腫瘍の中の神経膠腫(グリオーマ)の治療薬として
(2)1999年にアメリカ、ヨーロッパで発売されました。
日本では今年の7月に厚生労働省から承認され、神経膠腫においては19年ぶりに登場した新薬として熱い期待が寄せられています。
アルキル化剤はがん細胞のDNAなどの核酸の一部にアルキル基という原子集団を結合させることによって、DNAの合成を阻害してがん細胞を死滅させる抗がん剤です。
(3)テモダールは経口のアルキル化剤で、注射薬と体の中での薬物動態が同等であるところに大きな特長があります。
血液脳関門を通過しやすい分子量の小さな薬
テモダールは身体の中で代謝され、活性体に変換されることで初めて抗腫瘍効果を発揮するプロドラッグと呼ばれる薬です。通常、プロドラッグは肝臓の薬物代謝酵素で変換されますが、薬物代謝酵素の分泌量は民族間や人種間で大きく異なります。そのため服用量をはじめとする用法用量が民族や人種ごとに違ってくるのですが、テモダールは活性体への変換を肝臓の薬物代謝酵素に負っていないので、欧米の治験で確かめられた適切な用法用量がそのまま日本人にも適用されるところに大きな特長があります。
加えて、脳腫瘍の治療薬は脳を保護する「血液脳関門」というバリアーを通過しなければ患部に届きません。血液脳関門を通過しやすい条件としては、(1)分子量が小さいこと、(2)タンパク結合率が低いこと、(3)脂溶性が高いことなどの条件を備えていなければなりませんが、テモダールの分子量は194ときわめて小さいために血液脳関門を通過して患部に届きやすいという特長があります。
再発退形成性星細胞腫に31.8%の奏効率
神経膠腫はWHOの組織学的悪性度分類によってグレード1から4までの4種類に分けられます。そのうちグレード4の膠芽腫(グリオブラストーマ)がもっとも悪性度が高く、次にグレード3の退形成性星細胞腫が続きます。テモダールに大きな期待が寄せられているのは、悪性度の高い再発した退形成性星細胞腫に優れた治療成績を示すと同時に、初発の膠芽腫に対して術後の放射線治療との併用療法で初めて生存期間の延長が認められたからです。
前者の再発退形成性神経膠腫に対する有効性は、悪性神経膠腫の患者32人(退形成性星細胞腫22人、膠芽腫2人、退形成性乏突起星細胞腫6人他)を対象に行われた臨床試験で示されました。奏効率は31.2パーセントにのぼり、症状の増悪が認められない無増悪生存期間は3.9カ月(退形成性星細胞腫の患者のみ)、6カ月生存率は31.8パーセント(同上)に達したのです。
初めて証明された化学療法の上乗せ効果
一方、初発の膠芽腫に対して術後の放射線治療との併用によって初めて延命効果が確認されたのは、欧州がん研究機関(EORTC)とカナダ国立がん研究所(NCIC)臨床試験グループが共同で行った無作為化比較試験においてです。
573人の膠芽腫の患者を2つのグループに分け、一方にテモダールと放射線の併用療法を行い、もう一方に放射線のみの単独療法を行ったところ、後者の生存期間中央値は12.1カ月にとどまったものの、前者は14.6カ月と2カ月以上も長かったのです。
重要なのは放射線治療に化学療法を加えたときの上乗せ効果が、厳密な比較試験によって初めて確かめられたことです。しかも従来は過去の複数の研究を後から解析してかろうじて上乗せ効果を確認していたのですが、今回はもっとも信頼性の高い無作為化比較試験で実証されたことでその意義は大きいといえます。
副作用の少ない患者に優しい抗がん剤
初発の神経膠腫には術後、放射線照射と並行しながら1日1回75ミリグラム/平方メートル(体表面積あたり、以下同)のテモダールを毎日6週間服用した後、4週間休薬します。その後、テモダールを150ミリグ ラム/平方メートルに増量して毎日1回5日間服用後、23日間休薬するのを1コースとして、繰り返し行っていきます。2コース目以降は1回200ミリグラム/平方メートルに増量することもできます。
再発の神経膠腫には毎日1回150ミリグラム/平方メートルのテモダールを5日間服用した後、23日間休薬するのを1コースとして繰り返して行っていきます。2コース目以降は1回200ミリグラム/平方メートルに増量することもできます。
一方、テモダールの副作用の発現頻度は、骨髄抑制によるリンパ球減少(42パーセント)や好中球減少(42パーセント)がもっとも多く、便秘(42パーセント)も少なくありません。放射線治療との併用療法では、脱毛(69パーセント)や疲労感(54パーセント)、悪心(36パーセント)、嘔吐(20パーセント)などが認められましたが、大勢としては副作用の少ない患者に優しい抗がん剤といえます。