免疫療法
免疫と免疫療法の基礎知識
★★免疫抑制細胞を減少させるシイタケ菌糸体の研究
免疫を無力化させる免疫抑制細胞の異常な増加を防ぐには?
監修:原田 守 島根大学医学部免疫学教授
取材・文:伊波達也
(2011年09月号)

長年、がん免疫の研究に
携わってきた
原田守さん
がん患者さんの体では、免疫を無力化させる免疫抑制細胞が増加しています。その状態では、免疫細胞が、がん細胞にまでたどり着けないのです。「免疫抑制」に着目した医薬品の開発状況、そしてシイタケ菌糸体の最新研究に迫りました。
がん治療を阻む免疫抑制細胞が解明された
腫瘍マウスの免疫組織で増殖している黒く染まっている部分が、免疫抑制細胞
がんが体にできると、体内の免疫細胞が、がんを排除しようとして活性化します。そして、そのしくみを応用して、免疫細胞を活性化させて、がんへの攻撃力を高めようとするのが、各種免疫療法です。これまでにさまざまな免疫療法が、がんを攻撃する細胞を増やしたり、強化したりする治療として行われてきました。しかし残念ながら、その治療の効果はというと、それほど出ていないのが現状です。
なぜ、効果が十分ではないのでしょうか?
がんの免疫療法の研究に携わる研究者や医師の間では、試行錯誤がなされてきました。そして、昨今明らかになってきたのが、がんを発症すると増加する、免疫を無力化(抑制)してしまう「免疫抑制細胞」の存在です。
これは、正常なマウスと腫瘍を移植したマウスの免疫組織を観察した試験により、腫瘍を移植したマウスに免疫抑制細胞が異常に増えていることでも確認されています(写真1)。具体的には、主に制御性T細胞(Treg)といわれる免疫抑制細胞が、がんをたたこうとする免疫細胞をブロックして、免疫細胞ががん細胞にたどりつけないようにするのです(図2)。
がんを発症すると悪者に変わる免疫抑制細胞
ただ、免疫抑制細胞は写真1にもあるとおり、健康な体の状態でも存在します。島根大学医学部免疫学教授の原田守さんは次のように話します。
「実は健康な人の場合は、免疫が過剰に働いて、自らの体を攻撃してしまう自己免疫疾患にならないように、免疫抑制細胞がブレーキをかけています。免疫抑制細胞は、健康な人にとっては、むしろ良い作用を及ぼしているわけです。
ところが、ひとたびがんになってしまうと、このブレーキは、がんをたたくことを妨害する存在に変わるのです。がんになると、このブレーキ役の免疫抑制細胞が異常に増殖してしまい、せっかく活性化した免疫細胞をブロックしてしまうのです」
免疫抑制細胞の存在が明らかになったことにより、従来のように単にがんをたたく免疫細胞を増強するだけではなく、その免疫の働きを無力化してしまう免疫抑制細胞の機能を、弱めたり排除したりする方法を見つけ出すことが重要だと考えられるようになってきました。世界のがんの研究者たちの間では大きなトピックの1つとなっています。
免疫抑制に着目した薬の研究開発が進行中
| 成分名 | 分類 | 研究開発状況 |
|---|---|---|
| イピリムマブ | 医薬品 | 米国FDA承認(適用:悪性黒色腫) |
| トレメリムマブ | 医薬品 | 第3相試験(悪性黒色腫) |
| DTA-1 | 医薬品 | 基礎研究 |
| シイタケ菌糸体 | 食品成分 | 臨床研究実施中(免疫抑制細胞測定) |
現在、医薬品において、免疫抑制に着目した薬の研究開発が進んでいます(図3)。
2011年3月には、イピリムマブという、後期の転移性悪性黒色腫(メラノーマ)に対する治療薬が、米国食品医薬品局(FDA)で承認されました。
イピリムマブは、免疫を無力化してしまうCTLA-4というタンパクに取りついて、免疫の無力化を防ぎ、免疫細胞のがんに対する攻撃力を回復させるのです。臨床試験により、悪性黒色腫においては延命効果が証明され、治療薬として認められました。
ほかにも、免疫抑制に着目した薬としては、トレメリムマブ(一般名)やDTA-1という薬の研究も進みつつあります。
まだ十分な研究はされていませんが、既存の抗がん剤のなかにも免疫抑制細胞を弱める作用を持つ薬があるといわれ、今後はさまざまながん腫に対して効果のある薬が出てくることも期待されています。

