各種がん
卵巣がん
★★★米国臨床腫瘍学会で大きな注目を集めた日本発の進行卵巣がんの研究成果
タキソールの3週毎投与法より毎週投与法のほうが効果が高い
取材・文:がんサポート編集部 文山満喜
(2008年08月号)

国立がんセンター中央病院
腫瘍内科医長の
勝俣範之さん

東京慈恵会医科大学准教授の
礒西成治さん
日本で実施された、進行卵巣がんの化学療法に関する最新の臨床試験結果において、現在の標準療法に比べて、タキソールの毎週投与法のほうががんが悪化せずに生存する期間(無増悪生存期間)が優位に長くなったことがわかった。第44回米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表され、研究結果は、「ベストオブASCO」の1つに選ばれるなど、国外からも大きな注目を集めた。
悪化せずに生存する期間で約10ヵ月間の有意差

6月6日のJGOG婦人科がん最新治療法報告会(ASCO 2008)
婦人科がんの中でもとくに症状が出にくい卵巣がんは、進行した状態で見つかることが多く、化学療法の進歩が期待されている病気の1つである。
全国の婦人科腫瘍医が会員となって婦人科がん化学療法の研究を進めている婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構(JGOG)が実施した、進行卵巣がんの化学療法に関する「JGOG3016」(通称NOVEL試験)と呼ばれる臨床試験は、2003年5月〜2005年12月の期間に実施された。
現在、進行卵巣がんの化学療法の標準療法となっており、臨床の場で使用されているのは、日本婦人科腫瘍学会が作成した「卵巣がん治療ガイドライン2007版」や、欧米をはじめとする世界中の治療ガイドラインで推奨されている、タキソール(一般名パクリタキセル)と、パラプラチン(一般名カルボプラチン)という2種類の抗がん剤を3週ごとに投与する方法である。
NOVEL試験は、この標準治療を対照療法として、タキソールの投与を毎週にする療法(パラプラチンの投与法は標準治療と同じで、タキソールの1回投与量を減らす)とを比較し、がんが悪化せずに生存する期間(無増悪生存期間)について、どちらの療法が優れているかを主な評価として検討したもの。
全国の病院の参加のもと、約630名にのぼる患者さんの協力を得て実施されたNOVEL試験の結果は、(1)進行上皮性卵巣がん症例では、毎週投与の療法は、3週ごとの療法と比較して、悪化せずに生存する期間(無増悪生存期間)を改善(2)生存期間の効果については追跡中(3)副作用の血液毒性は毎週投与療法のほうが多かった(4)副作用の神経毒性は両群で同程度―であった。
とくに注目が集まったのは、悪化せずに生存する期間(無増悪生存期間)の効果で、毎週投与法は従来の標準療法に比べて、約10カ月間もの有意差を示した、という点だ(下図参照)。
この試験結果は、世界最大のがん臨床研究発表の場である米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表され、ハイライトとして取り上げられるなど、国外からも高い注目を集めた。
6月6日に都内で報告会見した、東京慈恵会医科大学准教授でJGOG3016試験のASCO発表者でもある礒西成治さんは、NOVEL試験結果の重要性について次のように語った。
「卵巣がんの標準治療はたしか10年来、これを上回る生存率あるいは、悪化せずに生存する期間(無増悪生存期間)の改善については発表されませんでした。2年前に発表された腹腔内投与法は悪化せずに生存する期間(無増悪生存期間)、生存期間ともに改善を認めたというもので、画期的なデータを出したわけですけれども、腹腔内投与法は副作用が強く、治療におけるコンプライアンス(服薬順守)が悪く、世界各国からクレームがつきました。
しかし、今回(の毎週投与法)は、(標準治療の)投与法をわずかに変えるだけで、悪化せずに生存する期間(無増悪生存期間)がこれだけ改善された。副作用については貧血がやや強かったものの、その他の副作用はほとんどない。悪化せずに生存する期間(無増悪生存期間)の改善幅は非常に大きな意味を持っておりまして、おそらく腹腔内投与法と比較しても大きな意味があります」
試験開始前に患者代表として、試験内容への意見を言う機会を与えられた、子宮・卵巣がんのサポートグループあいあい主宰のまつばらけいさんは、「少なくとも1年間、再発までの期間が延びたことは大変大きなことと思います。副作用は少ないことを期待していましたが少し残念でした」というコメントを寄せた。
[タキソール毎週投与法の効果(生存期間)]
国内で第1選択療法となる可能性は十分
試験の報告を受けて、今後、毎週投与法が標準治療となるのかどうかが、我々患者側にとっては重要事項である。その可能性について、礒西さんは、「少なくとも日本国内ではこれが(進行卵巣がん)治療法の第1選択になる可能性は十分にあると思います。しかし、他(国)の治療グループ、他(国)のスタディ(臨床試験)グループがこれをどのように受け止めるかは今後少し時間がかかると思います」と言う。
日本国内で、「卵巣がん治療ガイドライン」を作成している日本婦人科腫瘍学会は、この報告を受けて、「次回のガイドライン改訂時にこの療法を議論の対象にする予定」と緊急コメントを発表した。
しかし、今回の毎週投与法が国際的な標準治療となるには、次のような課題があるという。
国立がんセンター中央病院腫瘍内科医長でJGOGデータセンター委員会委員長の勝俣範之さんは、「国際的なEBM(科学的根拠)の観点から言うと、大きなスタディ(臨床試験)が1本だけですと、(国際的な標準治療法となるのは)難しい。どちらかの国でもう1つ(大きな臨床試験を実施してガイドラインに)推奨してもらえると完全な標準治療になる。(臨床試験が)1本だけですと標準治療でなく、(治療の)オプションの1つになる可能性がある。完全な標準治療となるには追試を(他国で)1本やってもらったほうがいいが、新しい分子標的薬(の研究)も出てきていますので、(追試は)なかなか難しい」と厳しい現状を吐露した。
早期承認は患者とともに声をあげて
さらなる課題は、国内における早期承認、早期の保険適用である。現在、進行卵巣がんに対する厚生労働省認可の標準投与法は3週ごとの療法のみとなっている。毎週投与法に対する早期認可を求めて、卵巣がん体験者の会スマイリー代表の片木美穂さんは、患者としての立場から、次のように訴えた。
「いま、スマイリーには164人の患者さんがいます。3週ごとの治療をしている患者さんがほとんどです。卵巣がんの生存率の厳しさを知っているので、患者さんは本当に情報を求めていて、今回の発表がインターネット上に流れたとたん、ものすごく動揺が走りました。
次の治療からウイークリー(毎週投与法)に変えたいということで担当医に直訴すると決意表明している患者さんもいます。(今後)厚労省への働きかけというのが必要だと思うんですが、JGOGなどが強力にプッシュしてほしいですし、もし患者とともに声をあげていただければ、厚労省に対してのプレッシャーにもなるのではないか、と思っています。1日も早く患者さんに投与できるように働きかけをしてほしいと思っています」
こうした患者側の声に呼応するように、近畿大学名誉学長でJGOG理事長の野田起一郎さんは、「このスタディ(臨床試験)で、標準療法と比較してこれだけ明らかに、この治療(毎週投与法)が有効であるという結果が出た。私はむしろこれだけ有効な治療法を患者さんに使わないというほうが悪いんじゃないかと思います。できるだけ早く厚生労働省の認可が下りるよう動きたいと思います」と、早期承認へのJGOGとしての対応を表明した。
NOVEL試験の詳細についてはASCOホームページ上のヴァーチャル・ミーティングにて諸手続き後に閲覧が可能である。また、日本婦人科腫瘍学会も今後、学会のホームページを通して、一般、卵巣がん患者さんに詳細をお知らせしていく予定だという。
国内における早期承認、国際的な標準療法への道のりなど課題点は多い。解析途中の生存期間など、最終解析結果の報告が待たれている。